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2008年3月10日

Gary Gygax the Great

若獅子の戦賦  HJ文庫G[bk1]

 世界初の RPG である D&D の生みの親ゲイリー・ガイギャックス氏が亡くなられたという事で話題になっていますね。まずはご冥福を。

 彼が RPG を生み出した、と言ってしまうと過剰評価だとは思いますが彼の生み出した D&D、というよりその前身になる Chainmail が無ければロールプレイ(役割演義プレイ)とアドベンチャーゲーム(選択肢分岐型ストーリー)とウォーゲーム(戦闘シミュレーション競技)は分離したままだったかもしれません。そして RPG を彩る中世風ファンタジーのイメージも無かったかも。後に流行った TCG への影響なども含め現代の創作ゲームのイメージを形作った人の1人である事は確か。そしてコンピュータ化されたそれを介しての日本のマンガアニメ小説への影響と。もはや日本文化の源流の一つと言っても過言ではないでしょう。

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 ……と、いうような話はどうせそこら中で書かれているでしょうからさておくとして。

 個人的事情を言えば、彼のデザインしたゲームで最初にプレイしたのは D&D ではなくてアバロンヒルのウォーゲーム『アレキサンダー大王』(Alexander the Great)だったのでした。というかこれ、私が最初に手に入れたシミュレーションゲームでもあります。この騒ぎになるまでその事に気がつかなかった(当時はデザイナーの名前まで気にしてはいなかった)のですが、不思議な縁を感じます。

D&D『ビギナーズ・セット』:アナログゲームshop

 ガウガメラの戦いを描いた会戦級の古代戦ゲームのこれですが、実は D&D の前身 Chainmail と同じく 1971年に Guidon Games より出された、言わば兄弟のような存在。つまりこの Alexander the Great で古代の会戦全体の様相を描き、Chainmail で中世の小部隊のぶつかりあいを描いていたことになります。そして Chainmail における 1ユニット20人(というかミニチュアゲームなので 1 figure が20人相当)という「頭数」だったものがその Fantasy Supplement においてキャラクターの「ヒットポイント」に化けて D&D のシステムにつながったわけですが。あるいは同様に Alexander the Great における戦象部隊が D&D におけるドラゴンに化けて……とは考えすぎでしょうか。いずれにしろ世界の戦史の内でも珍しい「巨大生物の戦場での利用」という様相をガイギャックス氏が既にこの時点でゲームデザインしていたのではあります。

 『アレキサンダー大王』と『D&D』の両方のシステムを体験した身から言うと、両者に「隊形の咄嗟での融通のきかなさ」とか「モラル(戦意)の重要さ」といった、後の RPG や、主流となった近代以降を扱うウォーゲームでは無視されがちであった部分の共通点が目に付きます。それと D&D には NPC 傭兵のルールがあって PC が(その能力に応じて)それを雇ったり指揮したるする事ができましたが『アレキサンダー大王』にも傭兵部隊がいて、これがなんと会戦の途中で(モラルや包囲の状況によって)寝返ったりもするんですよね。

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 まあそこらへんは前近代の軍事をまともに扱おうとすればおのずとそうなる、という部分ではあるのですが。あるいは RPG を作ったのがそういった分野のウォーゲーム・デザイナーだったガイギャックス氏でなかったならば、それは近代的な射撃戦(というより西部劇)になるか、さもなくば個人の剣技の集合(というより単なるチャンバラ)をモチーフとしたものになっていたかもしれません。というか後の RPG の進展は実際そういう志向に進み、その分断された個人芸ゲームの間抜けさを TCG か対戦格闘ゲームじみたコンボの戦術性で埋める、なんて事になってしまい……。(さすがに本家 D&D3.5e はそれだけには堕ちていませんが)

 まあ現状の RPG への批判はともかくとして。彼の永眠の報を聞いて、RPG の受け継ぐガチな前近代戦シミュレーションの部分に思いをはせてしまったのでした。

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