航空機なラノベ
さすがに「飛行機フィクション」では広すぎる(一大ジャンルである航空戦記物からスチュワーデス物語まで果てがない)ですし、話の流れとしてもライトノベルを中心にしているようですのでそこらへんの作品から記事やコメントでまだ出ていない作品を補完。
ライトノベルに相応する範囲での少年・青年漫画だと古くは『紫電改のタカ』新しくは『RAISE』といった空戦漫画の系譜が連綿と続いているのですが。ライトノベルの場合少年/少女向けの伝奇・スペオペ・ファンタジー文庫として展開して来た関係上からそこらへんはカテゴリー・エラーとなってしまうのか、漫画でやられているような形でのリアルな「空戦ライトノベル」は成立しなかった感じですね。話題の発端の『とある飛空士への追憶』にしても、出てくる機体の特性としては現実に成立しそうなものなのに、わざわざ突っ込み所にしかなっていない水動力による発電とかのSF(というよりファンタジー?)要素入れてますし。まあ兄弟ジャンルとしての「架空戦記」と住み分けられてリアル寄りな嗜好のものは作者・読者ともにそちらに行っている、という事もあるのでしょうけれど。
女皇の帝国 内親王那子様の聖戦
その架空戦記のレーベルで出されたライトノベルのこの作品、ヒロインの内親王様が不敬罪的にヤバイと評判ですが、実はガチな空戦ものでもあります。1巻からオートジャイロを操っていた彼女ですが、2巻ではなんとフライングパンケーキを駆って(史実で言う)ドゥリットル空襲の護衛を。マイナーSTOL機を好き勝手に出してますね。架空戦記の醍醐味です。そこらへん外しても、キャラクター小説としても入門用架空戦記としても良質な作品ですのでお勧めです。
ほしからきたもの。
『バーンストーマー』が出てもこちらが出てこないのは……未完だから? 謎の円盤UFOを迎撃する最後の有人戦闘機スターファイター。60年代的ロマンの極み。女子集団のどたばたという笹本氏が得意なのに他にうもれさせてしまう事が多い部分をメインにしてくれた作品だったのですが……未完なのが残念。
オーバー・ザ・ホライズン 僕は猫と空を行く
コメントで既に出ていますけれどもあえて。空戦物でない、どころか空を飛ぶのもちょこっとなのですが「飛行機もの」ライトノベルとしてはまず上げねばならないでしょう。『とある飛空士への追憶』は「大人が子供に書く」もの分かりのいい作品というイメージで「出来はいいけどそれだけ」と個人的には思ってしまいましたけれども、それに対してこっちはライトノベルとしての「夢」をちゃんと書いてくれていて、好きです。もっとも出来不出来で言えばこちらはあっちの足元にも及ばない作品ですので、一作きりで作者が消えてしまったのもしょうがない事ではある、とは思いますが。
零式
こちらもちらっと触れられていますが重ねて。というかこの作品こそ「飛行機ファンタジー」だと思うよ。もちろん「ファンタジーに飛行機が出る」作品ではなく「飛行機へのファンタジー」がテーマという意味で、ですが。死にぞこないの老人による与えられたロマンである零ではなく、ヒロイン自らがその心臓を再生したものが突破への力になる……ファンタジー。
冬の巨人
空を飛ぶこと=俯瞰する事。こと航空機としてはマイナーな代物ですが、作品のキーになる道具としてそれが出てきます。これ個人的には不満が強い作品なのですが、それは内包しているものの貴重さからの「もったいなさ」なので、そこそこ良作であるとは思う『とある飛空士への追憶』よりも印象としては強いです。
マルティプレックス 彼女とぼくのコミイッタ日々
ありがちな異世界召還ものなのですが、その世界のテクノロジーがちゃんと未来していて、乗員はちまちまと武器を照準する必要がなく車長や機長としての役割を果たすだけでいい、というある意味ライトノベルのタブーに挑んだ作品。主人公が最初に乗っているロボットじみた四脚戦車はさておき、後に乗ることになるのが爆撃機というのはライトノベルには珍しいかも。死がすぐそばにある異世界の戦場と現代の日常との間を往復しつつ、その日常が自分の知らぬまに「守られた」ものである事に気づく主人公。世界の謎も解明されないまま続きが出ていないのですがボーイ・ミーツ・ガールものとしてはちゃんと1冊で完結している良作です。埋もれた名作、と言ってもいいくらい。お勧め。
おまけ
航空は鉄道と並びオタクの元祖。それにミリタリーというオタクの集結点が加わった航空戦ものはオタクの極みという事もあり、それを手がける作家も読者も目が肥えすぎてしまいジャンル全体が素人おことわりと化してしまっていて。その中でも比較的敷居が低いはずのライトノベルでのそれですら、ある程度の知識がないと楽しめない要素も出てきてしまっています。というわけで入門用におすすめな本を。
萌えよ!空戦学校 空の王者・戦闘機のすべて!
昔、この手の本がライトノベルと今呼ばれている形態になる前の「少年文庫」だった頃はミリタリー入門的な本も小説とごっちゃになってラインナップされていたわけですが、現在は小説(とTRPGのルールやリプレイ)を残して排除されてしまいました。その代わりにその分野を現在担っているのが「萌え」なんたらとか付いているイラストを交えた大判の入門本。当然ながら空戦版も出ています。機体のスペックやら戦闘の様相やら以前の周辺知識(というか常識)を得るための本当のとっかかりの部分を得るにはこれあたりから入るのが良いでしょうか。
大空のサムライ
日本人に限らず、空戦に興味がある人なら読んでないとモグリなこの本。やはり実戦経験者の手になるノンフィクションはフィクションをいくら重ねてもたどりつけない重みがあります。『とある飛空士への追憶』でも引いてきていると思われる部分がありますので、より深く読むためにもお勧め。
北欧空戦史
北欧で戦われた、ソ連相手の小国による絶望的な抵抗史。地形の特性から航空機がその大きな役割を占めたわけですが、そこでの戦士達の戦いと戦争全体の意味を描いたルポルタージュの名著。日本における太平洋戦争みたいな「軍部が馬鹿だったから」の一言で済むようなのとは違い、本当に戦わざるをえないから戦う戦争というものもあるわけで……ご都合主義的なフィクションでの戦争から離れた現実の戦争について知っておくのも、フィクションを読む時の力になるかも。
世界の駄っ作機
……ひとえに愛だよ。
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