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2008年2月28日

南極点のピアピア動画 〈前編〉

SFマガジン  2008.4
「ベストSF2007」上位作家競作[bk1]

貧乳は正義

 尻Pこと野尻抱介先生ですが、実は本業はSF作家だったのでした。

 というわけで久しぶりの新作が『S-Fマガジン』に掲載。なんかVOCALOIDネタとか騒がれてますけど実際はVOCALOIDというよりニコニコ技術部ネタ。小隅レイなる名前のボーカロイドは出てきますけれども作中では客寄せパンダ以上の意味はない感じ。(イラストはまんま初音ミクですけど)

沈黙のフライバイ  ハヤカワ文庫 JA[bk1]

 話としては、月への隕石落下に従う放出物で生じた地球両極での双極ジェットを利用した有人飛行プロジェクトの話。ネタ的には『大風呂敷と蜘蛛の糸』(『沈黙のフライバイ』収録)の延長上のものですね。

 宇宙機製造のためのリソース取得の方法として、その初音ミク小隅レイを模したロボットによる自己再生産工場とかニコニコ動画ピアピア動画での投げ銭システムとかが出てくるのですが。なんかそこらへんの(技術的妥当性ではなくて)社会的な前提が結局のところ、大学という公共物の土地建物の利用だったり(おそらくは)寡占状態の動画サイト企業のお膳立てする投げ銭(会費として500円徴収し内300円が投げ銭に使える)だったりで、それに対する批判が存在しないのが気になります。まあ人気取りに走らないとリソースを取得し続けられないというあたりはちゃんと押さえられてますし、今回のプロジェクトにしても主人小が電車男ならぬ『宇宙男』として客寄せパンダとなり投げ銭を集めるためのものですし、この作品中での矛盾ではないのですけれども。

 野尻氏のWeb上での発言やドラゴンマガジンでのコラムを読んでも、クリプトンが最初から「公序良俗」に関する規定を使用許諾契約に入れているのを無視してエロへの制限が後付けであるかのように言って批判したり、あるいはGPLCCを「パブリックドメイン」呼ばわりしたり(それらはむしろパブリックドメインに対する批判から生じたライセンス)と、その主張以前の部分でげんなりさせられる事が多いのですが。この作品でもそういった「枠組み自体への批判を欠いたご都合主義によるいいとこ取り」が鼻についてしまい……まあS-Fマガジン掲載のSFに対してそういった批判は的外れでしょうし、意図してタコツボに引きこもっている今号冒頭の『From the Nothing, With Love.』(伊藤計劃)や『The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire』(円城塔)よりは(無自覚な分まだ)マシでもあるのですが。

 ともあれ、これで「『飽きた、去る』と書き残して主人公をふった恋人つれて宇宙に行ってセンス・オブ・ワンダー消費してよりを戻してめでたしめでたし」で終わるとも思えませんし。作中に「ブートストラップ」の語があるのに望みを託して、後編ではひっくり返してくるのを期待……できるのかな?

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