クジラのソラ 04
うーむ。大満足。
宇宙全体の運命を俎上に乗せつつも話は極めてパーソナルなスポコン・スペオペ見事に完結。
えーと、この話いつのまにやらシスコン兄貴の暴虐と、ブラコン妹の傲慢と、そんな話になってしまいました。
「わ、わたし子供じゃないよ! 今のわたし、ほら、こんな風に宇宙も作れるんだよ。すっごい強いんだよ?」
「だからどうした、このすっとこどっこい!」
「し、雫、あのね!」
「あのねじゃない! いいたいことははっきり!」
「ひ、ひいっ」
「だいたいわたしは、増長したガキが嫌いなんだーっ!」
「が、ガキっていった! ひ、ひどいよ雫!」
「頭でっかちで決断もできん男が大嫌いだーっ!」
「ぼ、僕にも来るのか!」
「何であんたたちは、二人してまわりくどいのよ! いいたいことはははっきりきっぱりすっぱり、ひとことでいえばいいでしょう!」
「え、えと。じゃあ、その。雫の結論は、その」
「冬湖! だいたいあんたはわたしと、一緒にいるって約束したんだろー!」
「そ、それはだから、ごめんって伝言を……」
「伝言ですますから、逃げだっつっとるんだ! 約束を一時間も経たないうちに破るような奴に宇宙をつくらせたり壊させたりさせてたまるか! あんたみたいな奴は聖一やわたしに使われてろ! いっそ一人で考えるな! あんたが考えて出した結論は全部間違いなんだから!」
「う、その。――それは、ひどくない?」(p284~285)
この娘、無茶苦茶傲慢である。既に宇宙を作るくらいは楽勝、そして因果律すら越えようとする第三段階に手を掛けた宇宙超凄い冬湖(+おまけで天才少年の聖一)に対して臆すことなくわがまま言いたい放題。
しかしこういうあけすけな人間関係があるから、概念としての世界でなく自分の回りにある実物としての世界に触れ、大切に出来る。冬湖の自己犠牲を否定しつつも、最後の宇宙大決戦でのそれを肯定できる。矛盾が矛盾にならないし、そしてそれは自分達の回りの世界だけではなく(途中で触れ合っただけの天才「ぼく」少女の野口かなた達とかをも含む)世界の全てに繋がって行く。
話の展開としては、石川賢風味な大味のスペオペをベースとして、引用に挙げたような少女達の口喧嘩(笑)がひたすら続くというものなんですが。その喧嘩の内から彼女達のプロフィールと、そして彼女達が大切に思う人達のプロフィールが浮き彫りになっていくわけで。この少年マンガ風スペオペへの少女マンガ的アプローチの心地好い熱さが魅力です。
著者のデビュー作『琥珀の心臓』はもとより『スラン』『幼年期の終わり』『ソラリスの陽のもとに』おまけで『星へ行く船』といったSFの名作からの批判的な回収も感じられる良作にもなり得ています。
それよりなにより、挫けては立ち上がる主人公雫のスポコンとしての熱さ。『暴風ガールズファイト』と並び立つ今年のスポコン物の成果としても。
このシリーズはこれで完結という事ですが。次回作にも期待です。
- P.S.
- p219 の雫のイラストが。(爆笑)
- いやそりゃびっくりしただろうけれども、本当にアゴが外れてるし。(笑)
- P.P.S.
- そういや百合とか薔薇とかラブコメとかの成分がすっかり揮発して皆無になってしまってますね。いや友情物としては極上だしそれはそれでいいんですけども。
- 著者: 瀬尾つかさ
- イラスト: 菊池政治 クジラのソラ 04
- 出版: 富士見ファンタジア文庫(159-5)
- Wikipedia, [Lightnovel Wiki], のべるぶろぐ 2.0
帯
――さあ、最後の
《ゲーム》を始めよう消えた冬湖。バラバラになった〈ジュライ〉。
雫は全てを取り戻すためソラへ旅立つ!
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おまけ
冬湖と智香の「元恋人」以外はなんかそれっぽくはある感じ。でも雫と恭介の「片想い」「友達」はわりとその通りなあたり含めてひどいかも。(笑)
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