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2007年10月14日

幽霊列車とこんぺい糖 メモリー・オブ・リガヤ

 この著者『フォルマント・ブルー カラっぽの僕に、君はうたう。』『熾天使たちの5分後』となかなかに鮮烈な作品を出してくれたので個人的に注目株だったのにマンガ原作してたりしてしょんぼりだったですが、2年ぶりに小説に帰って来てくれました。やったー。

 これはちょっといいよ。待たされた分を取り返すような良作でした。

フォルマント・ブルー カラっぽの僕に、君はうたう。

打ち捨てられた歌詞入力型シンセサイザーである庭瀬伽音。彼女を拾った、死を運命付けられていた階名春希は――音楽と死と再生の物語。

熾天使たちの5分後

憲法がどうこうという理由で美少女アンドロイドに国際貢献させている未来の日本。そのアンドロイドに同型機の死直前5分間の記憶を収集し記憶する特別の機体があった――死と鎮魂とその呪縛を描く戦闘少女の物語、になるはずが1巻+4短編(文庫未収録)で中断中。

とまあ、センシティブな題材を選ぶ作者。

 今回も死ぬの殺すのという騒ぎの作品ではあるのですが、前2作にはあったSFギミックを廃しているのと、その死が(他者や状況でもたらされるものでなく)あくまで主人公たちの自分で選ぶものである点で違っています。

 過去の著者の作品に対して、たとえば中村九郎における『神様の悪魔か少年』みたいな感じで突破を果たしていて、満足。っていきなり結論付けても説明にならないですか。

有賀海幸(あるが みさち) 中学 2年
ひだまりスケッチでいえばゆの。発育不良の小さな身体、生理不順、味覚欠乏、そして保険金自殺志願者。母子家庭で、ちゃらんぽらんな性格の水商売の母親チコちゃんに対して『とらドラ!』の高須竜児がごとき母親役を演じる苦労人。でもラブコメ主人公の竜児とは違い、生きながら心は死んでいる。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に心を奪われている。そんな、自分に死を呼んでいたはずの彼女は……。

「誰かがこの肉体から、魂だけを取り除いてくれればいいのに」
「……何それ?」
「リラダン『未來のイヴ』。ま、普通の女の子は読まないよね」
 リガヤの両手に少し、力がこもった。
「線路で横たわる君を見た瞬間、ボクは思った。君を、ボクだけのお人形にしたいって」

(p82-83)

里ヶ家千夏(さとがや ちなつ) 高校 3年
ひだまりスケッチでいえば宮子。長身の天才芸術家。ボクっ娘海幸を『ミサっち』と命名し、海幸には自分をリガヤと呼ばせる。海幸のバイトするパン・ド・カンパーニュ(田舎パン@200円)の店「LIGAYA工房」の店主厨川由布子(くりかわ ゆうこ)の従姉妹。“幽霊鉄道” を甦らせる企てに海幸を巻き込む。それは海幸を轢き殺す物だったはずが……。

「ボクのお姉ちゃんはね、病気だったんだ。心の病気。ことあるごとに周囲を振り回して、自分を傷つけるような行動ばかりして、自分の美貌には何ら無関心で……。たとえるなら『17歳のカルテ』のヒロインみたいな感じかな? あの映画は知ってる?」

(p158)

 話が進むにつれ周囲の人々の心を知り、死へと追い立てられていたはずの理由も喪失し、「誰かのせい」ではない死と向き合う羽目になる、主人公でかつヒロインな2人。

 自罰と自抑の人形劇な “幽霊鉄道” を打ち壊せるのは、切望の “こんぺい糖” の味……。

 全くファンタジックな要素が無いのに優れてファンタジックなこの作品。単なる百合好き以外の人にも勧めたい良作です。
 

ボクがこいつを 
『幽霊鉄道』として、
甦らせてみせる――。

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