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2007年9月 2日

スカイ・ホライズン

これくらいの作品だとわざわざ感想書いたりしないのが常なのですが、ライトノベルジャンル論が気になるので対照としてアメリカでのそれをさらっておこうかと。と、前置きして。

ただ今開催中の世界SF大会 Nippon2007 にてゲスト・オブ・オナーとして招待されているデイヴィッド・ブリンの新作ヤングアダルト・ノヴェラ『スカイ・ホライズン』が S-Fマガジン2007年10月号 に丸ごと収録されています。Colony High シリーズの第一作 とあるのでシリーズ物の1巻なわけですがこれだけで一応切りも付いています。

原書は $35 もするのにそれが 890円の雑誌に丸ごと掲載とはお買い得かも。原書はハードカバーの挿絵付きに対してこちらは扉絵と挿絵2枚のみですから値段に差があるのは当然なのですが、挿絵あってもああいうのじゃあまりうれしくないしなぁ。


内容は『E.T.』をパロったようなファーストコンタクト物。ハードSF作家として定評のある氏の作品なので単なるパロディーに終わらず異種文明の接触に焦点を当てた力作になっています。というか力作というよりもこういうのを軽々と書いてしまうのがアメリカSF作家の実力というものなのでしょうけれど。

話の展開は、ちょっと外れてるっぽい高校生3人組みが、不時着したエイリアンのナ‐ビスタカを取り合う数学クラブとフットボール部の諍いに巻き込まれ……というような感じ。その主人公マークの友人たちは主人公と同じXスポーツ(岩登りクラブ)の同好者で空手黒帯ガールなアレックスに、自作自転車が自慢の技術オタクのバリーの2人。そして主人公憧れの女子サッカーチームのヘレンに、その彼女といい仲っぽい金髪の上級生スコットと、日本のライトノベルでも通用するようなキャラ立て。

すくなくとも町の一部が、一つの話題に集中している。十五歳から二十歳までの興味がそれにむかっている。いまホットな話題がなにか知るのにアバターを使うチャットルームにログインする必要はない。掲示板にポツポツと書き込まれている。PDAの小さな画面にインスタントメッセージの細切れの文としてスクロールしていく。無数の携帯電話からささやかれ、画面に文字が並ぶ。(p17)

ここらへんまでは日本と差がないのですが。違ってくるのはその少年集団の振る舞い。日本のそれのノリだと、エイリアンを大人たちに隠したまま空に返してあげよう、というような展開になり、それがそのまま通ってしまったりするわけですが。アメリカのハイスクールのこれだと最初にエイリアンを発見しそれを奪われた数学クラブのトム(彼に泣きつかれて主人公たちは動いた)は奪ったフットポール部のマッチョなゴーネットに買収されて結託。友達の技術オタのバリーまでもエイリアンの噂を「嘘」として収束させるためのダミー人形の制作の話に色気を出し始めるし……。

驚くにはあたらない。アメリカの十代の若者は、簡単な方程式が解けなくても、複雑精緻な計画を練ることにはたけている。手のこんだパーティーや休暇旅行の手配、学生選挙の運営など、自分たちのやりたいことならなんでもそうだ。なにも知らない親の目をさらにごまかすこともする。
(中略)
スコット・テッパーやヘレン・ショクリーがソファで携帯を使っている姿も見えた。TNP高校のトップレベルの社交界がかかわっているわけだ。じつはテッパーが本当の黒幕なのかもしれない。ゴーネットを表看板にして、テッパーが裏を仕切っているのではないか。
偶然とはいえ、アレックスとぼくはその仲間に誘われているんだと、マークは思った。
(中略)
TNP高校の大多数の生徒が、この一晩の嘘はなんだったのかと頭をかきむしっているときに、テッパーや美人のヘレンといっしょに行動できる。刺激的で、驚異的で、重要な事をやれる……。
その最後のところではっとした。
重要なことって……だれにとって重要なんだ?(p29)

いかにも日本のライトノベルでも有りそうな少年集団のチャチな陰謀。しかしその目的は大人の社交界に取り入り

たとえば裕福なエリート階級からさらに高額の入場料を取るのだろう。(p28)

というような代物。

「ちょっと話があるんだ」
アレックスはマークの視線をまっすぐ受け止めた。その顔はヘレン・ショクリーほど魅力的ではない。しかしその目には、いまのマークにとって助けになるものが浮かんでいた。それは、良識だ。
「わたしとおなじことを考えてる?」
ここで口に出して言う勇気はなかった。頭のなかで形をとりつつある計画を実行すれば、トゥエンティナンバーズ高校においてマークは社会的に死ぬだろう。それどころか、今夜以降どこへ行ってもそのことがついてまわり、レッテルを貼られつづけるかもしれない。(p30)

かくして主人公は裏切者になり、エイリアン問題は少年たちの世界から消え去るわけですが。しかしそれは話の発端でしかなく。

全10章中の残り9章は主に歴史教師クレメンツに仕切られる生徒たちの論議で占められています。最初に振られたマークアレックスヘレンの三角関係とかの色気のある話題については一切進展無し。語られるのは地球における16世紀あたりからの侵略の歴史とそれを元にしたエイリアンとのコンタクトの結果の予想の話。

「たとえば、ちょうどいまわたしたちが勉強している時代、十六世紀から十七世紀は――」
生徒たちはうめき声をあげた。この先生はどんなきっかけからでも本題に戻るのだ。
「――激烈な変化の時代だった。たぶん、わたしたちがこれから直面するよりもっと破壊的な変化だ」
ホッジ・クラブツリーが後ろのほうの席で鼻を鳴らした。
「ファーストコンタクトより大きな変化なんてないでしょう。理解不能の超技術を持った強力な宇宙人と出会うなんて……」
「それさ!」
クレメンツ先生はニヤリとして、そのまま口をつぐんだ。彼一流の間だ。こういうときはなにか――なにかのつながりに気づくことが期待されているのだ。頭を働かせている生徒なら気づくはずのなにか。(p35)

日本のそれだと、例えば教師が出てきても生徒と同レベルの新任友だち担任先生か、超然と生徒を見守る養護教諭や校長といったあたりで、つまり生徒が自主的に動くのを邪魔しない都合の良い背景の代表になってしまうのですが。ここでのフィクションは高校よりも大学の教師に相応しいような態度で生徒に考えさせる歴史教師を置いています。そこでの討論によって生徒の個性が提示され、一介の高校生の身分でありながら世界の問題(それは彼等がエイリアンの占有を放棄する事でそうなった)に触れ続けます。

アーリーン・スーがまた手を挙げた。以前の臆病さが声にもどっている。
「わたしは気づいていました。だれでも気づいていましたよ。山東省では。アメリカ映画のヒーローたちは……みんな敬意が欠けてるって」
マークの背後からヘレン・ショクリーの声が答えた。
「わたしたちは気づきにくいんじゃないかしら。たぶんそれは――」
「――すでに同意しているプロパガンダだから、だね」
マークは思わずヘレンの答えの後半を自分で言ってしまっていた。彼女のほうをふりむいて目で謝り、すぐに前をむいた。ヘレンの表情は、また友情と謎の笑みだった。(p53)

話の最後では問題がこの高校の生徒の所へ戻って来て……ラストはまた、日本のライトノベルにも良くある状況になるわけですが。

そこまで到達する間に問題が世界全体の問題にされ、世界中で交わされる論議の代表例として学級での討論があり、そして彼等がその結末をたまたま引き受ける羽目になる。閉鎖された環境で自分達だけで観念上の世界と対峙しがちな日本のそれとはずいぶん違います。

どちらが良い悪いという話ではなく、未だこういうものがハードカバーで、つまり図書館に入れたり親に買ってもらったりする存在であるアメリカと、自分の小遣いで買うものである日本の違いとか、大人になりたがっているアメリカの子供と、子供でいたがっている日本の子供の差とか、そういった差異の問題でしかないとは思いますが。

あるいは一番の違いは鎖国国家日本と、植民地国家アメリカの差によるものかもしれません。

アオリ

世界SF大会
「Nippon2007」開幕直前特集
the 65th World SF Convention

ゲスト・オブ・オナー最新ノヴェラ二〇〇枚一挙掲載

ふつうの高校生だったマークの生活は一変した。その日、エイリアンを救けてから……。

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