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2007年9月14日

僕たちのパラドクス2 -Acacia1429-

第6回富士見ヤングミステリー大賞〈大賞〉受賞作『Acacia! ~明るい未来と幸せな現在のために~』改め『僕たちのパラドクス -Acacia2279-』の、続編。前巻での「時空を超えた恋愛物」からは想像もつかない、「歴史批判」の領域にまで展開していてちょっとびっくりもの。まあ前巻にもその萌芽はあったですけれども――。

「私は、時空監査法院という組織のエージェントなの。目的はさっきも言った通り、絶望の未来の回避。つまり人類が本来歩むはずだった『地獄の未来』の存在可能性をゼロに近づけ、『明るい未来』の存在可能性を極大化させるのが使命。(p41)

『明るい未来』へと続く(改変された)歴史を守るために『地獄の未来』から来た時空監査員霧島榛名が、『明るい未来』での彼女の同一人物に当たるハルナ・キリシマによる主人公高崎青葉抹殺を防ぎつつ、更なる改変をされてしまった歴史の謎を探るため1429年のフランスに行き、成り行きでジャンヌ・ダルクになるのであった。ってこう書いたんじゃ何だか分かりませんか。

「『しょせん世の中出たとこ勝負、迷わず行けよ、行けばわかるさ』――『孫子』十三篇の一つ、爆裂宇宙篇に記されている言葉よ」
そんな孫子はいない。要はまるで作戦ナシという事だろう。(p329)

言い換えると、事態を良く理解していない『明るい未来』と『地獄の未来』の時空監査員ハルナ・キリシマ霧島榛名が、未来のキーマンになったりならなかったりするかもしれない高崎青葉を巻き込んでジャンヌ・ダルクになったりジャンヌ・ダルクの敵になったりして戦っているうちに……というような話。

で、話の終盤に入ってから真の黒幕な、1巻の事件による改変後の世界にあたる『第三の未来』の……って不必要なネタバレは程々として。要するに1巻でのハルナ・キリシマ霧島榛名とは別の世界分岐でのハルナ・キリシマ霧島榛名の話なわけ。ハルナ・キリシマ霧島榛名の2人自体も世界分岐で分かれた同一人物なので一寸混乱しますけれども、シリーズ通してだとそれぞれ別人になる4人の同一人物が出てきていると。さすがはタイムトラベル物らしいややこしさ。

で、歴史介入したり異能バトルしたりする話の中で語られる事は、しかし人を殺す事の重みと社会の意味なのでした。

「『帝国主義』という言葉の定義は一定しない。民族主義介在型の覇権主義と言い換えてもよいし、植民地の存在そのものも定義には影響しない。帝国は時空を超えて動き続ける万華鏡、と評したのは二十一世紀の歴史学者、ドミニク・リーベンね」(p252―霧島榛名)

帝国主義』の万延を抑止するための歴史介入のはずが帝国主義(民族主義)のルーツたる「オルレアンの乙女」を演ずる羽目になるパラドクス。

「なぜ、分からない? 絶望の未来を人類が歩んでいく――それを黙って見ていろと!?」
「目的さえよければ、どんな手段を使ってもいいの……? それを肯定するなら、単なる独善よ。人類のためじゃない、貴女達自身を満足させるためのね――」
互いに剣を構え、睨み合う二人。もはや互いに余力はない。おそらく、次の一撃で勝負が決まる……!
「私は間違ってなどいない! 手段など選んでいられない――そんな未来を体験したことのない人間が、戯言をほざくな!」(p234)

『地獄の未来』による、自らの陥ってしまった歴史を否定するための「歴史改変」によって生まれた『明るい未来』が、自らの存在を自明としあらゆる「歴史改変」を否定し結果、『明るい未来』自らの存在を危うくしてしまうというパラドクス。

「……それも、私達のせいよ。青葉の感じている希薄感は、『地獄の未来』が行なった歴史改変から来る歪みを、全て貴方に被せたせい。青葉は西暦二〇〇六年において非情にイレギュラーな存在でありながらそれを自覚できず、ただアンバランスな感覚だけが膨れ上がっていく。貴方をそうしてしまったのは、私達なの」(p251)

「実際のところ、貴女は『明るい未来』の西暦二二七九年にはほとんど未練などないはず。ただ、恩のあるナガラ局長に申し訳ないだけ――違いますか?」(p400)

『明るい未来』の社会から切り離され汚れ仕事を押し付けられるハルナ・キリシマ、そして 四歳でAK(アサルトライフル)を持ち、六歳までにゲリラ教程をマスター、それからすぐに実戦(p179) な『地獄の未来』の霧島榛名の2人の同一人物たる「人殺し」と、その『明るい未来』を成立させるための「道具」として作られた、社会に帰属感を持てない高崎青葉。社会のために生き使われる者がその社会の恩恵を受けられないというパラドクス。

「『第三の未来』が生まれたきっかけですか。それは――とある少年と少女の、時空を超えた出会いが発端」
クラマは、唐突に漠然とした表現を並べた。
「彼らは幸せな現在を過ごし、明るい未来が待っていた――いや、待っているはずだった」(p404)

前巻の意義すら怪しくしつつ、話は次巻の南北戦争へと……これまたクリティカルな題材を選ぶなぁ。

少女は救世主
になった。歴史を
改変するために――

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